疫学研究 (observational study)

[子どもの磁界への居住環境ばく露と急性リンパ芽球性白血病] epidem.

Residential exposure to magnetic fields and acute lymphoblastic leukemia in children

著者: Linet MS, Hatch EE, Kleinerman RA, Robison LL, Kaune WT, Friedman DR, Severson RK, Haines CM, Hartsock CT, Niwa S, Wacholder S, Tarone RE

掲載誌: N Engl J Med 1997; 337 (1): 1-7

RISフォーマットで参考文献をダウンロード

【背景】先行する諸研究は、小児白血病と、磁界ばく露の代用指標（「ワイヤー・コーディング」として知られる電力線分類体系）との関連性を見出したが、小児白血病と６０Hz住居磁界の計測値との関連性は見出していない。【方法】我々は、近隣の電力線によって生じる磁界への住居ばく露を研究する上で、急性リンパ芽球性白血病（ALL）の、15歳未満で Children's Cancer Group に登録している 638人の児童および、対照群としての620人を名簿に記載した。対象者の現在及び以前の自宅において、対象者の健康状態を知らされていないデータ収集者が、各児童の寝室における24時間の磁界と、その他の3、４室内部及び正面玄関外での30秒間の磁界を測定した。電算機の演算法が、ワイヤー・コード範疇を、近隣電力線の距離と形状に基づき、対象者の主たる住居（416人のケース患者と416人の対照群について）と、母親がその児童を妊娠していた期間に家族が住んでいた住居（230人のケース患者と230人の対照群について）に割り当てた。【結果】小児ALLのリスクは、推測的基準に従い分類されたところの、要約時間加重平均の住居磁界レベルと関連付けられなかった。0.0065 μT 未満時と比較した、 0.200 μT 以上時のALLのオッズ比は、1.24（95％信頼区間、0.86-1.79）であった。ALL のリスクは、主たる住居が最高位のワイヤー・コード範疇（最低位範疇と比べたオッズ比は、0.88 ; 95%信頼区間、0.48-1.63）に属する児童らの間で、増大していなかった。さらに、リスクは、母親がその子を妊娠していた時期に住んでいた家の住居磁界レベルとも、ワイヤー・コード範疇とも顕著に関係付けられなかった。【結論】我々の研究結果は、計測に基づく時間加重平均磁界レベルの高数値や、最高位のワイヤー・コード範疇にによって特徴づけられる住居に住むことが、小児のALLリスクを増大させるという証拠には乏しいものであった。

研究の目的(著者による)

米国における症例対照研究で、近傍の電力線から生じる磁界への居住環境ばく露と小児白血病との関連の可能性を調査した。

詳細情報

磁界へのばく露は、24時間測定、ならびに、Wertheimer-Leeperの分類及びKaune-Savitzの分類に従ったワイヤ・コードの計算で評価した。

影響評価項目／リスク推定のタイプ

小児白血病: 急性リンパ芽球性白血病

リスク推定のタイプ:

発生率

(オッズ比(OR))

ばく露

- 50/60 Hz (AC)
- 磁界
- 送電線
- 住宅環境の

ばく露評価

ワイヤコード: いずれかの架空電力線の45m以内の家庭からの距離に基づき、住居は五つのWertheimer-Leeperカテゴリーのうちの一つ、及び、Kaune-Savitzの方法の三つのカテゴリーのうちの一つに分類された
測定: 子どもの寝室での24時間測定；子どもの寝室、家族の部屋、台所、母親の妊娠中の寝室の中央、及び玄関ドアの0.9m以内の屋外での30秒間の測定
計算: 部屋の測定値の時間加重平均からのサマリ磁界レベル

ばく露集団

グループ	説明
参照集団 1	磁界の時間加重平均のサマリレベル：< 0.065 µT
集団 2	磁界の時間加重平均のサマリレベル：0.065 - 0.099 µT
集団 3	磁界の時間加重平均のサマリレベル：0.100 - 0.199 µT
集団 4	磁界の時間加重平均のサマリレベル：≥ 0.200 µT
集団 5	磁界の時間加重平均のサマリレベル：0.200 - 0.299 µT
集団 6	磁界の時間加重平均のサマリレベル：0.300 - 0.399 µT
集団 7	磁界の時間加重平均のサマリレベル：0.400 - 0.499 µT
集団 8	磁界の時間加重平均のサマリレベル：≥ 0.500 µT
参照集団 9	Wertheimer-Leeper：地下電力線（UG） + 非常に低い電流配置（VLCC）
集団 10	Wertheimer-Leeper：一般に低い電流配置（OLCC）
集団 11	Wertheimer-Leeper：一般に高い電流配置（OHCC）
集団 12	Wertheimer-Leeper：非常に高い電流配置（VHCC）
参照集団 13	Kaune-Savitz：低ワイヤ・コード（LWC）
集団 14	Kaune-Savitz：中ワイヤ・コード（MWC）
集団 15	Kaune-Savitz：高ワイヤ・コード（HWC）

調査対象集団

グループ:
- 小児
年齢: 0–14年
観察期間: 1989 - 1994
調査地域: 米国（イリノイ、インディアナ、アイオワ、ミシガン、ミネソタ、ニュージャージー、オハイオ、ペンシルヴェニア、ウィスコンシンの各州）

症例集団

特性: 急性リンパ芽球性白血病の子ども
データ源: 小児がんグループ
排除クライテリア: ダウン症候群

対照集団

ランダムディジットダイヤリングで抽出
マッチング:
- 性別
- 年齢

調査規模

	症例	対照
適格者	1,914	1,987
参加者	767	725
評価可能	638	620

その他:

症例416人及び対照416人についてのワイヤ・コードのカテゴリー

統計学的分析方法:

ロジスティック回帰

(調整:

年齢
性別
社会経済的状況

)

結論(著者による)

時間加重平均が0.200µT以上の居住環境磁界に関連した、急性リンパ芽球性白血病についての有意な過剰リスクは認められなかった。有意な量‐反応関係は認められなかった。この結果は、子どもの磁界への居住環境ばく露が急性リンパ芽球性白血病のリスクと関連しているという証拠をほとんど提示していない。

研究助成

Children's Cancer Research Fund (at Cancer Center of University of Minnesota), USA
National Cancer Institute (NCI; U.S. National Institutes of Health), Maryland, USA

この論文に対するコメント

Feychting M et al. (1998): [電磁界と小児白血病]
Campion EW (1997): [電力線とがんの危険性]
Wartenberg D (1997): [白血病と磁界ばく露]
Stevens RG (1997): [白血病と磁界へのばく露]
Gochfeld M (1997): [白血病と磁界へのばく露]
Neutra RR (1997): [白血病と磁界へのばく露]
Levallois P et al. (1997): [白血病と磁界へのばく露]
Funk H (1997): [白血病と磁界へのばく露]
Kabat GC (1997): [白血病と磁界ばく露]

関連論文

Amoon AT et al. (2022): [磁界と小児白血病について最近の研究のプール分析]
Núñez-Enríquez JC et al. (2020): [白血病の発症率が高く、ELF磁界へのばく露が高い都市での超低周波磁界と小児の骨髄性急性リンパ芽球性白血病のリスク]
Campos-Sanchez E et al. (2019): [小児のB細胞性［骨髄由来細胞性］急性リンパ芽球性白血病におけるELF磁界の役割を研究するための新規のETV6-RUNX1マウスモデル：予備的研究]
Crespi CM et al. (2019): [カリフォルニア電力線研究における小児白血病：磁界と電力線からの距離]
Swanson J et al. (2019): [報告されている小児白血病リスクと磁界の経時的変化]
Kheifets L et al. (2017): [居住環境磁界ばく露と小児白血病：カリフォルニア州における人口集団ベースの症例対照研究]
Bunch KJ et al. (2016): [英国における電力線と小児がんの疫学研究：詳細分析]
Crespi CM et al. (2016): [カリフォルニアにおける小児白血病と電力線からの距離：人口ベース症例対照研究]
Leitgeb N (2015): [総観解析はELF磁界ばく露による小児白血病リスクを明確に示す]
Tabrizi MM et al. (2015): [小児急性リンパ性白血病における電磁界ばく露の役割および尿中アルファアミラーゼの影響なし：イランのテヘランでの症例対照研究]
Pedersen C et al. (2015): [デンマークにおける超低周波磁界への居住環境ばく露と小児期の白血病、中枢神経系腫瘍、リンパ腫のリスク]
Tabrizi MM et al. (2015): [高圧電力への出生前および出生後のばく露による小児急性リンパ芽球性白血病（ALL）のリスク上昇：イランのエスファハーンでの症例対照研究]
Salvan A et al. (2015): [小児白血病と50Hzの磁界：イタリアのSETIL症例対照研究からの知見]
Zhao L et al. (2014): [磁界ばく露と小児白血病のリスク：11699人の症例と13194人の対照に基づくメタ分析]
Pedersen C et al. (2014): [住居から電力線までの距離と小児白血病のリスク：デンマークにおける人口ベースの症例対照研究]
Swanson J et al. (2014): [小児がんと電力線からのコロナイオンへのばく露：疫学的試行研究]
Bunch KJ et al. (2014): [架空高圧電力線からの出生時の住居の距離：英国における1962-2008年の小児がんリスク]
Ba Hakim AS et al. (2014): [マレーシアのクランバレーにおける架空送電線からの距離と急性小児白血病に関するELF-EMF相関研究]
Sermage-Faure C et al. (2013): [高圧電力線の近くでの小児白血病‐Geocap研究、2002-2007]
Schüz J et al. (2012): [超低周波磁界と小児の急性リンパ芽球性白血病からの生存：国際フォローアップ研究]
Jirik V et al. (2012): [中欧における小児白血病と電力周波数磁界へのばく露との関連]
Swanson J et al. (2012): [電力周波数磁界と小児白血病の研究に対して地磁気は影響を改変し得るか？]
Wünsch Filho V et al. (2011): [ブラジルのサンパウロにおける磁界へのばく露と小児急性リンパ球性白血病]
Sohrabi MR et al. (2010): [小児の急性リンパ芽球性白血病のリスク要因としての架空高圧送電線の近くでの居住：症例対照研究]
Kroll ME et al. (2010): [イングランド及びウェールズにおける小児がんと高圧電力線からの磁界：症例対照研究]
Kheifets L et al. (2010): [磁界と小児白血病についての最近の研究のプール分析]
Malagoli C et al. (2010): [電力線からの磁界ばく露に関連した血液学的な悪性腫瘍のリスク：イタリア北部の2つの自治体における症例対照研究]
Rahman HIA et al. (2008): [マレーシアのクラング・ヴァレーの子どもにおける環境要因と急性白血病の発生との関連についての症例対照研究]
Bernard N et al. (2008): [動物の白血病モデルを用いた、50Hz磁界とその高調波の潜在的な白血病誘発作用の評価]
Schüz J et al. (2007): [電磁界への夜間のばく露と小児白血病：拡張プール分析]
Svendsen AL et al. (2007): [磁界へのばく露と小児白血病の診断後の生存率：ドイツのコホート研究]
Foliart DE et al. (2006): [白血病の子どもの磁界ばく露と長期的な生存率]
Kabuto M et al. (2006): [日本における小児白血病と磁界：日本における小児白血病と居住環境での電力周波数磁界についての症例対照研究]
Draper G et al. (2005): [イングランド及びウェールズにおける高圧電力線からの距離に関連した小児がん：症例対照研究]
Schüz J et al. (2001): [小児急性白血病のリスク要因としての居住環境磁界：ドイツの集団ベースの症例対照研究からの結果]
UK Childhood Cancer Study Investigators (2000): [小児がんと電力線への住居の近接度]
Bianchi N et al. (2000): [架空電力線と小児白血病：登録ベースの症例対照研究]
Greenland S et al. (2000): [磁界、ワイヤ・コード、小児白血病のプール分析：小児白血病‐電磁界研究グループ]
Ahlbom A et al. (2000): [磁界と小児白血病のプール分析]
Dockerty JD et al. (1999): [ニュージーランドにおける電磁界ばく露と小児白血病]
Thomas DC et al. (1999): [配線条件から予測した居住環境磁界：II 小児白血病との関連]
Green LM et al. (1999): [カナダのオンタリオ州における小児白血病と電界及び磁界への居住環境ばく露の個人モニタリング]
Green LM et al. (1999): [カナダのオンタリオ州南部における小児白血病及び住居での磁界へのばく露についての症例対照研究]
McBride ML et al. (1999): [カナダにおける電力周波数電界及び磁界と小児白血病のリスク]
Angelillo IF et al. (1999): [電磁界への居住環境ばく露と小児白血病：メタ分析]
UK Childhood Cancer Study Investigators (1999): [電力周波数磁界へのばく露と小児がんのリスク]
Dockerty JD et al. (1998): [ニュージーランドにおける電磁界ばく露と小児がん]
Michaelis J et al. (1998): [居住環境磁界と小児の急性白血病についてのドイツの二つの人口ベースの症例対照研究を組合せたリスク推定値]
Petridou E et al. (1997): [電力線と小児白血病：ギリシャからの研究]
Tynes T et al. (1997): [ノルウェーの高圧電力線の近くに住む子供の電磁界とがん]
Lin RS et al. (1994): [高圧電力線が通過する地域における小児白血病のリスク]
Kaune WT et al. (1994): [ワルトハイマー・リーパ・コードの単純化]
Olsen J et al. (1993): [高圧設備の近くでの居住と子どものがんのリスク]
Feychting M et al. (1993): [スウェーデンの高圧電力線の近くに住む子どもの磁界とがん]
Petridou E et al. (1993): [感染症へのばく露の年齢と小児白血病のリスク]
Verkasalo PK et al. (1993): [電力線の近傍に住むフィンランドの子どもにおけるがんのリスク]
London SJ et al. (1991): [居住環境の電界及び磁界へのばく露と小児白血病のリスク]
Myers A et al. (1990): [小児がんと架空電力線：症例対照研究]
Savitz DA et al. (1988): [小児がんと60Hz磁界へのばく露についての症例対照研究]
Fulton JP et al. (1980): [ロードアイランドにおける電線配置と小児白血病]
Wertheimer N et al. (1979): [電線配置と小児がん]