超低周波の電界および磁界 (0,1 Hz–1 kHz)の影響

(2016年4月時点の英文ウェブページの和訳です)

超低周波電磁界に関しては、電界磁界は別々に取り扱われます。この2つはヒトおよび生物に対してそれぞれ異なる作用をします。超低周波磁界へのばく露により、体内には電界電流誘導されます。この誘導電界および誘導電流が、(イオン電流を介した神経刺激の伝達または細胞膜での信号変換など)生体の働きにおいて重要な役割を果たしている生体内因性の電界および電流と相互作用します。その上、超低周波電界は、体表面の電流に影響を及ぼします。職業ばく露ばく露限度値を下回る磁束密度または磁界強度では、ほとんどの場合これらの作用は感知され得ないもので、健康リスクは何もありません(バーデン・ヴュルテンベルク研究所(LUBW), p. 104-105)。

全般的には、これらの界の作用は、界の強さ、周波数、界の中での身体の向き、界の発生源と人体との距離に依存して決まります。距離が増すにつれて界は弱くなります。また、界の向きとの関連で見た解剖学的特性(横断面積、形状、姿勢)および身体の接地も、電界中で一定の役割をもちます。

超低周波電界

超低周波電界は、人体の存在によって歪まされ、電荷移動により体表面にある大きさの電界強度を生成します。その電界強度は、人体の寸法、形状、部位および接地、それから電界中での人体の向きに依存して決まります。皮膚表面および体毛のような表面での帯電は、静電磁界中で生じます。電界強度に依存して、微視的な放電および体毛の動き(互いに反発し合い、その後、直立する)が生じることにより、この体表面への作用は知覚されます。しかし、ミクロショックへの長時間ばく露により生じるかも知れないストレスを除けば、体表面の帯電の結果として生じる超低周波電界に関連する直接的健康影響として知られているものは今日まで何もありません(cf. 静電磁界 (0 Hz)の影響)(ICNIRP, p. 819)。

このような表面作用に加えて、体外の超低周波電界は体内に電荷移動による電荷密度の空間的変動を引き起こします(静電誘導)。このような体内誘導電界は、外部の50 Hz/60 Hz電界の数10万分の1から100万分の1の弱さです(ICNIRP, p. 819; LUBW , p. 103)。身体の部位および誘導電界強度に依存して体内誘導電流電流密度は変わりますが(図をご覧下さい)、一般的には接地が十分であると電流は増加します。しかし、日常生活において生じる体内電流密度(例えば、電力線により生じるもの)は最大値で数mA/m²です。この値はあまりにも低くて到底神経筋肉刺激することはできないため、害はありません(cf. 以下の図、“超低周波磁界”のセクションの“感知可能/計測可能な影響に関する限度値”)。

外部電界は人体の体表を帯電させ、(交流電界の場合には)非常に微弱な体内電流を発生させる。したがって、電界の作用は基本的には体表に限定される。

超低周波磁界

超低周波磁界は、事実上何の妨害もなく身体を貫通します。起こり得る最も大きな影響は、体内に磁気誘導された電界および電流(いわゆる渦電流)による刺激作用です(図参照)。誘導電流強度は、磁界の周波数、磁束密度および空間分布(すなわち、空間内各点での磁界強度)と磁界が貫通する身体横断面の面積によって決まります。誘導電流強度が一定の限度値を超過すると、感覚器の受容体神経細胞筋細胞に感知され得る刺激を引き起こします(cf. 以下の図、“ 感知可能/計測可能な影響に関する限度値”)。この場合、神経細胞での刺激伝導には細胞膜を横切るイオン電流が介在するため、磁界により引き起こされるイオンの分極作用が一定の役割を果たします。

外部の超低周波磁界は人体に渦電流を生じさせる。磁界は人体を貫通する。この単純化した図は、体軸に直交する交流磁界による渦電流を示す。この図で説明されたような誘導電界および電流の作用は、誘導電界および電流が限度値以下である日常生活では感知されることはない。

神経の本来的な活動により生成される体内の界は、最大でも10 mA/m2電流密度があります。さらに高い電流密度心筋内および脳内で局所的に発生しています(LUBW, p. 104)。外部の界により生成された電流が10 mA/m2を上回る電流密度であれば、皮膚または眼の感覚器受容体で感知されるにすぎません。しかしばく露が反復する場合には、それがイライラ感や機能障害につながることがあるかも知れません。神経骨格筋または心筋刺激による急性の健康リスクは、電流密度が100 mA/m2以上となる局所的誘導電界でのみ引き起こされます。そのような影響が可逆的なものか、あるいは熱傷やその他の組織損傷まで生じさせる不可逆的なものになるか否かは、誘導電界および電流の強度に依存します。

超低周波交流電界および磁界基本制限(cf. 基本制限)は、イライラ感、機能障害または傷害を引き起こし得る体内電流を排除するために、科学研究から導き出された体内誘導電界限度値で構成されています(安全マージンを含む)。しかし、基本制限は体内での測定が困難であるため、電磁界の人体ばく露制限に関するガイドラインでは、計算により導出された限度値(cf. 参考レベルの章)が示されています。これらの限度値は、基本制限の遵守を保証する外部の電界および磁界の最大レベルを規定しています。影響が発生する閾値は、界の周波数に依存して異なります。例えば、以下の図は、50 Hzの電界および磁界に関する公衆のばく露限度値の設定について説明しています。全ての感知可能および計測可能な影響は、定められたばく露限度値を上回らない限り発生しません

感知可能および計測可能な影響に関する磁束密度および電界強度での閾値(対数目盛)および26. BImSchV に準拠して導出された50 Hzのばく露限度値(cf. ドイツにおけるばく露限度値(一般公衆) “電力線のばく露限度値”のセクション)

閃光はいわゆる不適切な刺激(例えば、機械的、電気的、磁気的な刺激)により誘発される視覚の感覚で、たとえ眼を閉じていても感じられます。閃光は、とりわけ磁界電界によって引き起こされ、視野周辺部の点滅として現れます。磁界および電界に対応して、この現象を磁気閃光および電気閃光と呼びます。これらは、生体組織内の誘導電界により網膜の視神経または神経細胞刺激されることで引き起こされます。

100 Hzより低い周波数では、閃光はその組織誘導電界が50-100 mV/mかそれ以上で誘発されます(ICNIRP, p. 821)。磁気閃光の場合、眼球内にその程度の誘導電界を引き起こす外部の超低周波磁界磁束密度は、20 Hzで約5 mTかそれ以上、50 Hzでの閾値は10 mT前後になります(図 “磁束密度および電界強度での閾値”をご覧下さい; cf. ICNIRP, p. 820; Lövsund et al., 1980)。電気閃光の場合、外部の50 Hz電界による刺激誘発閾値は数100 kV/mになります(cf.図 “ 磁束密度および電界強度での閾値”)。しかし、この大きさの50 Hz電界は、今日の技術的プロセスまたは電力線付近において通常は発生しません(BMAS, p. 3)。

一般的に、磁気閃光および電気閃光は可逆的で害はなく、電界中での体毛の振動と同様のものです。しかし、職業環境においてイライラ感を生じさせる影響があるかも知れないため、それに見合う基本制限により防止されています(cf. 基本制限の章)。職業ばく露基本制限値は、閃光を引き起こす最小レベルのすぐ下に設定され、一般公衆の基本制限は、その職業ばく露限度値の5分の1に下げられています(ICNIRP, p. 823)。

重度の神経および筋肉刺激は、外部の500 mTを上回る50 Hz磁界(または数100万V/mの電界BMAS, p. 3)により引き起こされます。まず、そのような界は心室細動を引き起こします。さらに強い界(少なくとも5倍強い界)の場合、四肢神経および筋肉刺激が起き、それは不随意(けいれん)運動を引き起こします。