この研究は、デンマークにおいて、高圧送電線と住宅との距離と小児白血病発症のリスクの関連を調べた症例対照研究である。症例は、デンマークがん登録から、1968-2006年の間に15歳未満で白血病と診断された1698人;対照は、デンマークの全小児人口集団から、各症例と性別、出生年を個別マッチさせ、無作為抽出された3996人である。症例および対照が出生時に住んでいた住宅と最も近い架空送電線(32-400 kV)との距離は、地理情報システムを用いて決定した。距離が≧600 mの住宅居住者を参照群としてオッズ比(ORs)を計算した。その結果、0-199 mの住宅居住者群のORは0.76(95%信頼区間[CI]: 0.40-1.45);200-599 mの住宅居住者群のORは0.92(95%CI: 0.67-1.25);一方、送電線を220と400 kV線に限定した場合、200-599 mの住宅居住者群のORは1.76(95%CI: 0.82-3.77)であった;ただし、このORは少数データに基づいたものであり、0-199 mの住宅居住者群での症例数はゼロであったため、リスク上昇を示唆したものとは考えられない、と報告している。そもそも、送電線磁界と小児白血病についての数多くの疫学研究は、2000年のプール分析(Ahlbomら:0.3/0.4μT群の統合ORが約2)、2001年のIARC発がん分類の公表、2000年以降の研究のプール分析(2010年Kheifetsら:2000年のプール結果とほぼ同様だが、やや統合ORが低下)という全体図の中に位置づけられている、と著者は述べている。今の時点で、改めてこのような研究を実施した理由を以下のように説明している。2005年、英国研究(Draperら)は、「高圧送電線と住宅との距離 >200 m群と小児白血病リスクが関連」という結果を公表した。しかし、この距離では、高圧送電線由来の磁界強度が家庭内バックグラウンド磁界レベルを上回ることはないため、この結果を磁界で説明することはできないと結論した。偶然、バイアス、あるいは送電線近傍に多く存在する他のリスク要因などについて、同研究者グループあるいは他の研究者がデータの吟味を続け、調査手法上の問題点はなかったとされたが、全くの偶然により、対照群では送電線の遠方地域居住の割合が一般小児人口より高くなっていた(すなわち、対照群に人口代表性がなかった)ことが報告された。そこで、デンマークという全く独立の調査対象において、同等の調査を実施することに意義があると、著者らは考えている。
グループ | 説明 |
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集団 1 | 出生時の住所から最も近くの132-400kV電力線までの距離: 0 - 199 m |
集団 2 | 出生時の住所から最も近くの132-400kV電力線までの距離: 200 - 599 m |
集団 3 | 出生時の住所から最も近くの132-400kV電力線までの距離: ≥ 600 m |
症例 | 対照 | |
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適格者 | 1,698 | 3,396 |
出生時の住所のほとんど(94.9%)は、最も近くの132-400kV架空電力線から600m以遠にあった。最も近くの電力線までの距離が計算され、磁界強度が推定された、出生時の住所4284か所のうち、12か所が ≥ 0.1µTにばく露されていた。
132-400kV架空電力線から ≥ 600m離れた場所に住む子どもと比較して、0-199mに住む子ども(OR 0.76、CI 0.40-1.45)または200-599mに住む子ども(OR 0.90, CI 0.66-1.22)については、より高いリスクは認められなかった。分析を220-400kV架空電力線に限定した場合、電力線から ≥ 600m離れた場所に住む子どもと比較して、200-599mに住む子どもについて僅かに高いリスク(OR 1.76、CI 0.82-3.77)が認められた。但し、この知見についての説明としては、偶然によるものである可能性が高い。というのは、この結果は有意ではなく、数が少なく、電力線の200m以内では症例は認められず、線のより近くでのより高いリスクの兆候がなかったためである。
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