【背景】携帯電話使用の急速な増加により、それらの機器からの無線周波電磁界の健康リスクの可能性についての懸念が生じている。【方法】共通プロトコルによる13ヶ国での調査に基づき、聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫と同義)と新規に診断された患者群1105人と対照群2145人の症例対照研究が実施された。過去の携帯電話使用については個人インタビューで調査された。主要な分析は参照日(症例では診断日、対照ではマッチされた症例の診断日)の1年前の時点でのばく露時間についてのものである。可能な限り長期の潜伏期を見込むために、参照日の5年前の時点でのばく露についても分析した。【結果】常に携帯電話の規則的使用者であったことに伴う聴神経鞘種のオッズ比(OR)は0.85(95%信頼区間は0.69-1.04)であった。規則的使用の開始から10年以上についてのORは0.76(0.52-1.11)であった。累積通話時間または累積通話回数の増加につれてORが増加する傾向はなく、最も低いOR(0.48(0.30-0.78))は累積通話時間の10分位中の第9分位で見られた。累積通話時間の第10分位(≧1640時間)でのORは1.32(0.88-1.97)であったが、累積通話時間が≧1640時間のカテゴリーには、信じがたい値の使用報告が含まれていた。参照日の5年前の時点でのばく露については、規則的使用の開始から10年以上についてのORは0.83(0.58-1.19)であり、累積通話時間が≧1640時間のカテゴリーでのORは2.79(1.51-5.16)であったが、やはり第9分位以下では何も傾向性はなく、第9分位のORが最も低かった。全体として、腫瘍と同じ頭側で通常携帯電話を使用したと報告した人の方が反対の頭側と報告した人よりORsが大きいことはなかったが、累積使用時間の第10分位では同側使用の方のORが大きかった。【結論】携帯電話を常に規則的に使用したこと、または参照日の10年以上前から規則的使用を開始した人において、聴神経鞘腫のリスク上昇はなかった。累積通話時間の最高レベルで観察されたオッズ比上昇は、偶然、報告バイアスによるものかも知れないし、または因果的な影響によるものかも知れない。聴神経鞘腫は通常成長が遅い腫瘍であるため、影響がもしあったとしても影響を観察するには携帯電話の導入と腫瘍の発生との間隔が短すぎたかも知れない。
インターフォン研究は、13か国(オーストラリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、日本、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、英国)で実施された、携帯電話から発せられる無線周波エネルギーを主に吸収する組織における四種類の腫瘍(神経膠腫、髄膜腫、聴神経鞘腫、耳下腺腫)に焦点を当てた国際的な症例対照研究のセットとして開始された。本論文は、聴神経鞘腫のリスクについての分析結果を示すもので、神経膠腫及び髄膜腫のリスクについての報告は、以前の publication 18215 がカバーしている。
携帯電話の定常的使用は、少なくとも6か月間に少なくとも週1回と定義した。
グループ | 説明 |
---|---|
参照集団 1 | 定常的使用:なし |
集団 2 | 定常的使用:あり |
参照集団 3 | 定常的使用経験なし |
集団 4 | 使用開始からの期間: 1-1.9年 |
集団 5 | 使用開始からの期間: 2-4年 |
集団 6 | 使用開始からの期間: 5-9年 |
集団 7 | 使用開始からの期間: ≥ 10年 |
参照集団 8 | 定常的使用経験なし |
集団 9 | 累積通話時間: < 5時間 |
集団 10 | 累積通話時間: 5-12.9時間 |
集団 11 | 累積通話時間: 13-30.9時間 |
集団 12 | 累積通話時間: 31-60.9時間 |
集団 13 | 累積通話時間: 61-114.9時間 |
集団 14 | 累積通話時間: 115-199.9時間 |
集団 15 | 累積通話時間: 200-359.9時間 |
集団 16 | 累積通話時間: 360-734.9時間 |
集団 17 | 累積通話時間: 735-1639.9時間 |
集団 18 | 累積通話時間: ≥ 1640時間 |
参照集団 19 | 定常的使用経験なし |
集団 20 | 累積通話件数: < 150 |
集団 21 | 累積通話件数: 150-349 |
集団 22 | 累積通話件数: 350-749 |
集団 23 | 累積通話件数: 750-1399 |
集団 24 | 累積通話件数: 1400-2549 |
集団 25 | 累積通話件数: 2550-4149 |
集団 26 | 累積通話件数: 4150-6799 |
集団 27 | 累積通話件数: 6800-12799 |
集団 28 | 累積通話件数: 12800-26999 |
集団 29 | 累積通話件数: ≥ 27000 |
参照集団 30 | 同側での携帯電話使用なし |
集団 31 | 同側での携帯電話使用 |
参照集団 32 | 定常的使用経験なし |
集団 33 | 同側使用、最初の使用からの期間: 1-1.9年 |
集団 34 | 同側使用、最初の使用からの期間: 2-4年 |
集団 35 | 同側使用、最初の使用からの期間: 5-9年 |
集団 36 | 同側使用、最初の使用からの期間: ≥ 10年 |
参照集団 37 | 定常的使用なし |
集団 38 | 同側使用、累積通話時間: < 5時間 |
集団 39 | 同側使用、累積通話時間: 5-114.9時間 |
集団 40 | 同側使用、累積通話時間: 115-359.9時間 |
集団 41 | 同側使用、累積通話時間: 360-1639.9時間 |
集団 42 | 同側使用、累積通話時間: ≥ 1640時間 |
参照集団 43 | 定常的使用なし |
集団 44 | 同側使用、累積通話件数: < 150 |
集団 45 | 同側使用、累積通話件数: 150-2549 |
集団 46 | 同側使用、累積通話件数: 2550-6799 |
集団 47 | 同側使用、累積通話件数: 6800-26999 |
集団 48 | 同側使用、累積通話件数: ≥ 27000 |
参照集団 49 | 定常的使用なし |
集団 50 | 反対側使用、最初の使用からの期間: 1-1.9年 |
集団 51 | 反対側使用、最初の使用からの期間: 2-4年 |
集団 52 | 反対側使用、最初の使用からの期間: 5-9年 |
集団 53 | 反対側使用、最初の使用からの期間: ≥ 10年 |
参照集団 54 | 定常的使用なし |
集団 55 | 反対側使用、累積通話時間: < 5時間 |
集団 56 | 反対側使用、累積通話時間: 5-114.9時間 |
集団 57 | 反対側使用、累積通話時間: 115-359.9時間 |
集団 58 | 反対側使用、累積通話時間: 360-1639.9時間 |
集団 59 | 反対側使用、累積通話時間: ≥ 1640時間 |
参照集団 60 | 定常的使用なし |
集団 61 | 反対側使用、累積通話件数: < 150 |
集団 62 | 反対側使用、累積通話件数: 150-2549 |
集団 63 | 反対側使用、累積通話件数: 2550-6799 |
集団 64 | 反対側使用、累積通話件数: 6800-26999 |
集団 65 | 反対側使用、累積通話件数: ≥ 27000 |
症例 | 対照 | |
---|---|---|
適格者 | 1,361 | 14,354 |
参加者 | 1,121 | 7,658 |
評価可能 | 1,105 | 2,145 |
全体として、定常的使用経験あり(グループ2)及び10年以上の携帯電話使用(グループ7)について、聴神経鞘腫のリスク上昇は認められなかった。累積通話時間または累積通話件数の増加に伴うORの上昇傾向は認められず、累積通話時間が上から2番目のグループ(735-1639.9時間)で最も低いOR(0.48;CI 0.30-0.78)が観察された。累積通話時間が一番上のグループ(≥ 1640時間)では、ORが1.32(CI 0.88-1.97)であった;但し、このグループではありそうにない値が報告された(例:5時間/日を超える携帯電話使用)。分析を参照日の5年前に限定した場合(携帯電話使用についての可能性のある前駆症状を排除するため)も、同様の結果が観察された。
全体として、腫瘍と同じ側の頭部で携帯電話を通常使用していた(同側使用)と報告した被験者では、反対側使用の被験者と比較して、オッズ比は大きくなかったが、累積使用時間が1640時間以上の被験者では高かった。
著者らは、携帯電話の定常的使用経験あり、または参照日の10年以上前に定常的使用を開始したユーザーには、聴神経腫のリスク上昇はなかった、と結論付けた。累積通話時間が最も高いレベルで観察されたオッズ比の上昇は、偶然、報告バイアスまたは因果関係によるものである可能性があった。聴神経鞘腫は通常、成長が緩慢な腫瘍なので、仮に影響があったとしても、携帯電話の導入と腫瘍の発生までの期間が短すぎて、影響を観察できなかったのかも知れない。
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