この研究は、5種類のがん細胞株に対する超低周波(ELF)磁界(60Hz:0.025 - 5 μT;ばく露下での培養時間は6日間または3週間)の影響を調べた。用いた細胞株は、K562、HEL92.1.7、MCF7、NCI-H460、COLO320DM。ELF磁界ばく露は、磁気シールドされた空間内に置かれた培養器内で、方形コイルを用いて与えた。無ばく露状態(ベースライン値)で、磁気シールド内の60Hz磁界強度は4nTであったと述べている。その結果、6日間の磁界ばく露では、磁界強度によらず、全ての細胞株で染色体数がベースライン値より減少した;3週間のばく露では、染色体数がベースライン値まで回復した、などを報告している。著者らは、代謝を制限する物質(ATPの合成や消費を阻害する化学物質)には、無酸素状態に比べて、がん細胞の染色体数を本来の46により近い数に戻す力があること、この代謝制限による染色体数の急速かつ回復可能な減少を核型収縮(KC)と考えることを以前に報告している(Tumor Biol. 33:195-205: 2012)。今回の磁界ばく露実験で、代謝制限物質と同様のKCが観察されたと解釈している。
9つの実験が実施された(”電磁界特性”参照):
1.) 5種類の細胞株を異なる磁束密度に6日間ばく露させた後に検査した。
2.) 影響が磁界そのものによるか、あるいは培養液中の誘導電流によるかを調べるために、水平および垂直の磁界を用いた実験をK562細胞で行った。水平コイルは垂直コイルに比べ6倍高い電流を誘導したが、磁束密度は同じであった(その原因は培養皿の形状による)。
3.) K562細胞に超低周波磁界(ELF-MF)ばく露を3週間与え1週間に1度の検査を行った。3週間後に、ELF-MFの強度を上昇または低下させて、その6日後に細胞を検査した。
4.) K562細胞に、さまざまな周波数の磁界を6日間ばく露した。
5.) K562細胞を次の環境で培養した: a) ELF-MFを < 5 nTに遮蔽した 74 µの静磁界中、b) ELF-MFを < 5 nTに遮蔽した < 3 µTの静磁界中。
6.) ELF-MFとオリゴマイシン(アデノシン三リン酸合成酵素(ATPS)阻害剤)は共通の作用様式を持つという仮説を検証するため、ELF-MFばく露あるいはオリゴマイシン添加の条件下でK562細胞をを増殖させた。
7.) ELF-MFはATPSを阻害し、それによりアデノシン一リン酸活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)を活性化するかを検証するため、メトホルミン(AMPKを活性化する)またはレシスチン(AMPKを阻害する)の存在下で、ELF-MFばく露されたK562細胞を増殖させた。
8.) 培養液に3つの条件でばく露を行い、その培養液を用いてK562細胞を培養した(細胞は7時間、2-2.7 µTで培養された(培養器内の60 Hzバックグラウンド磁界のため)
ばく露 | パラメータ |
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ばく露1:
60 Hz
ばく露時間:
continuous for 6 days
experiment 1
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ばく露2:
60 Hz
ばく露時間:
continuous for 6 days
experiment 2
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ばく露3:
ばく露時間:
continuous for 21 days (1 µT) or for 27 days (first 21 days 1 µT or 0.1 µT, then decrease or increase)
experiment 3
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ばく露4:
50–155 Hz
ばく露時間:
continuous for 6 days
experiment 4
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ばく露5:
0 Hz
ばく露時間:
continuous for 4 days
experiment 5
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ばく露6:
60 Hz
ばく露時間:
continuous for 6 days
experiment 6
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ばく露7:
60 Hz
ばく露時間:
continuous for 6 days
experiment 7
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ばく露8:
60–120 Hz
ばく露時間:
continuous for 15 hours
experiment 8
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ばく露9:
ばく露時間:
continuous for up to 8 days
experiment 9
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周波数 | 60 Hz |
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タイプ |
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ばく露時間 | continuous for 6 days |
Additional information | experiment 1 |
ばく露の発生源/構造 | |
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ばく露装置の詳細 | MFs were applied by rectangular coils (19 x 25.6 cm) with 20-50 turns of copper wire wound on 13 mm polycarbonate; the coil was under the two inner shields and over an acrylic spacer at the bottom of the outer shield; 60-Hz fields above 0.4 µT were from sector-connected variable transformers; smaller 60-Hz fields and other frequencies were generated with computer-based synthesizers; MFs were within 10% of nominal in the whole cell culture area; 60 Hz 5 µT exposures produced no measurable temperature rises |
Additional information | unexposed cells for experiments were kept in culture flasks under anoxia and MFs below 4 nT (60 Hz); three 6.3 mm thick layers of structural steel reduced ELF-MFs from incubators and the environment |
周波数 | 60 Hz |
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タイプ |
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ばく露時間 | continuous for 6 days |
Additional information | experiment 2 |
測定量 | 値 | 種別 | Method | Mass | 備考 |
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磁束密度 | 1 µT | - | 測定値 | - | vertical and horizontal magnetic field |
ばく露の発生源/構造 |
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周波数 | 60 Hz |
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タイプ |
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ばく露時間 | continuous for 6 days |
Additional information | experiment 6 |
ばく露の発生源/構造 |
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測定量 | 値 | 種別 | Method | Mass | 備考 |
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磁束密度 | 0.4 µT | - | 測定値 | - | - |
周波数 | 60 Hz |
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タイプ |
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ばく露時間 | continuous for 6 days |
Additional information | experiment 7 |
ばく露の発生源/構造 |
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測定量 | 値 | 種別 | Method | Mass | 備考 |
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磁束密度 | 0.4 µT | - | 測定値 | - | - |
周波数 | 60–120 Hz |
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タイプ |
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ばく露時間 | continuous for 15 hours |
Additional information | experiment 8 |
ばく露の発生源/構造 |
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測定量 | 値 | 種別 | Method | Mass | 備考 |
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磁束密度 | 4 nT | maximum | 測定値 | - | condition1: "very small magnetic field"; 60 Hz |
磁束密度 | 3 µT | maximum | 測定値 | - | condition 1: "very small magnetic field"; static magnetic field |
磁束密度 | 2.7 µT | maximum | 測定値 | - | condition 2: "incubator magnetic field"; range from 2-2.7 µT |
磁束密度 | 0.62 µT | - | 測定値 | - | condition 3: 120 Hz |
EMF-Portalによる注記:他に記載がなければ、論文には結果の有意性が記されていない。
全てのばく露された細胞株は核型における喪失を引き起こし、ほとんどの場合フラットな量反応関係であった(実験1)。異なる周波数の場合も同様であった(実験4)。
水平および垂直方向の磁界を用いた細胞培養で、染色体の数は同じであった。したがって、著者らは、観察された変化は磁界そのものが原因であると結論した(実験2)。ばく露から3週間後に核型の値はベースライン値(ばく露が無いときの染色体数)に戻った。3週間後から磁界の上昇および低下は、再び核型の低下を引き起こした(実験3)。ELF-MFおよび静磁界を遮蔽した細胞培養(実験5b)は、核型の小さな低下傾向を示したが、増殖速度は明らかな上昇を示した。
磁界ばく露およびオリゴマイシンは同様の影響、すなわち、ベースライン値に比べ細胞サイズが小さくなった(実験6)。観察された影響がメトホルミンにより増大し、レシスチンにより縮小したことは、ATPS-AMPK経路の関与を示唆した(実験7)。条件3にばく露した培養液に比べ、「非常に弱い磁界」にばく露した培養液中で培養された場合、細胞は有意に小さくなった(実験8)。磁界ばく露されたMCF-7細胞(5 µT)において、4 nTで培養された細胞に比べ、顕著な形態の変化が見られた。さらに、磁界ばく露されたNCI-H460細胞において、4 nTで培養された細胞に比べ、細胞増殖が上昇した(実験9)。
著者らは、種々の細胞株において磁界ばく露は核型の変化を引き起こす可能性があり、そのような変化はATPS-AMPK経路によるのかも知れない、と結論している。
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