この疫学研究は、 2004年から2006年、スペイン国サバデルにおいて確立された、人口ベースの出生コホートに拠り、第1トリメスタ(1から12週)に超音波検査に医療機関を訪れた妊婦1099人に参加を依頼し、同意した657人(60%)についての調査である。第3トリメスタに環境ばく露質問紙調査を行い、妊娠32週における母親の携帯電話使用について回答を求めた。質問は2問で、「携帯電話を使用しますか?」と「送受信は一日何回ですか?」である。回答は587人から得られた。生まれた子供は、14ヶ月の時点で、神経発達テスト(ベイレイ乳幼児発達スケールの中の精神・心理運動発達スケールを用いた)を受けた。全てのテストは、母親の付き添いで医療機関において、訓練された2名の心理学者(ばく露情報には関知してない)によって実施された。心理発達テストを行ったのは530人であり、57人については行わなかった。除外の基準は、ダウン症など特定の疾患が子供にある場合の他、母親のIQ検査結果、教育歴、社会階層、若い母親などの粗スコアを、正規分布を仮定して標準化し、決定した。多変量線形回帰モデルを用い、携帯電話使用がベイレイスケールの精神・心理運動指標に与える影響を調べた。モデル1には、子供の日齢と性別、検査した心理学者が項目に含まれた。モデル2には、モデル1の項目の他に、子供の神経発達の主要な予測子として重要と報告されている共変数(母親の社会経済的地位・教育歴・IQ)、以前の我々のデータで携帯電話に関連した潜在的リスク要因とされる項目(母親の年齢・喫煙)を項目に含めた。携帯電話使用者と非使用者の差異を見るために、1日1回の通話をする群を参照カテゴリーとした。分析結果は以下の通りであった。まず、530組の母子ペアにおいて、携帯電話の非使用者は11%、1日の通話回数は、1回が31%、2-4回が45%、5回以上が13%であった。結果として観察されたのは、携帯電話の使用者あった母親の子供と、非使用者であった母親の子供の間における、神経発達スコアの小さな差異のみであった。使用者の子供は、比較的高い精神発達スコアと比較的低い心理運動系発達スコアを示した。これには、測定していない交絡因子が影響しているかも知れない、と著者は考察している。携帯電話使用者において、使用量に伴う傾向性は見られなかった。以上から、本研究からは、妊娠中の母親の携帯電話使用が生まれた子供の早期の神経発達に有害な影響を及ぼすことを示す証拠は得られていないと結論している。
グループ | 説明 |
---|---|
参照集団 1 | 携帯電話使用:なし |
参照集団 2 | 携帯電話使用:1回/日 |
集団 3 | 携帯電話使用:2-4回/日 |
集団 4 | 携帯電話使用: ≥ 5回/日 |
タイプ | 値 |
---|---|
適格者 | 1,099 |
参加者 | 657 |
参加率 | 60 % |
評価可能 | 530 |
生後14か月でのフォローアップ
母親の11%が携帯電話使用なし、31%が1日当たり1回通話、45%が1日当たり2-4回通話、13%が1日当たり5回以上通話と報告した。携帯電話ユーザーと非ユーザーの子どもには、神経発達スコアに僅かな違いしか認められなかった。ユーザーにおける携帯電話使用量の傾向はなかった。
著者らは、本研究は子の初期の神経発達に対する妊娠中の母親の携帯電話使用の悪影響についての証拠をほとんど示していない、と結論付けた。
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