研究のタイプ: 医学/生物学の研究 (experimental study)

[超低周波電磁界はラットの嗅球のエストロゲン受容体-アルファ及び-ベータの発現を異なった形で制御する] med./bio.

Extremely low-frequency electromagnetic fields differentially regulate estrogen receptor-alpha and -beta expression in the rat olfactory bulb

掲載誌: Neurosci Lett 2010; 471 (2): 109-113

この研究は、嗅球(OB)のエストロゲン受容体-α(ER-α)および-β(ER-β)のmRNA発現に対する超低周波磁界(ELF MF)の影響について成獣の雌雄ラットを用いた実験で調べた。エストロゲン受容体は、成体ラット神経系の多くの領域に存在し、生殖機能のみならず、学習記憶、社会的認識などの非生殖機能にも役割を持つ。実験では、まず、雌ラットを、発情前期、発情期、発情後期、非発情期に麻酔下で屠殺し、OBER-αmRNA、OBER-βmRNAの発現をRT-PCRにより測定した。その後、17-β-エストラジオール濃度を制御するために両側卵巣切除術を行った雌ラットで、ELF MF(60 Hz、1 mT、1日2時間、9日間)ばく露実験を行った。切除術を受けた雌は2群に分けられ、一方の群は、毎日、ばく露の1時間前に、17-β-エストラジオール補充剤を、もう一方の群は、薬剤溶媒のみを投与された。前者は発情期、後者は非発情期ばく露を受けたことになる。追加として、雄でのばく露実験も行った。その結果、最初に、ELFEMFばく露を受けていない雌での発情周期の各段階におけるOBでのER-αおよび-βのmRNA発現の変動パターンを示した(すなわち、ER-α発現は非発情期に最大となり、発情前期に最低となる;ER-βの変動は少ないものの、非発情期に最低となる);ELFEMFは、雌では発情周期によって異なる変化をOBER-βmRNA遺伝子発現に与え、発情期には増加させ、非発情期には減少させることが示された;ELFEMFによる雌のOBERαmRNA発現への影響は観察されなかった;また、雄のOBにおけるER-αmRNAおよび-βmRNAの発現レベルは、ELFEMFばく露、非ばく露に関わらず変動しなかった、と報告している。

研究目的(著者による)

成獣の雌雄のラットにおける嗅球エストロゲン受容体アルファ及びベータの発現に対する超低周波電磁界の影響を調べること(社会的認識記憶の改善の根底にある超低周波電磁界エストロゲンとの相互作用を調査するため)。

詳細情報

エストロゲン受容体は、成獣のラット神経系の多くの領域に存在する。生殖機能における役割に加えて、エストロゲン学習記憶、社会的認識等の生殖以外の機能に意味合いを有する。

動物を麻酔し、発情前、発情期、発情後、発情間期に屠殺した(各群n=4-9)。別の雌のグループの両側の卵巣を切除し(17-ベータ-エストラジオール濃度の変化を避けるため)、14日後に17-ベータ-エストラジオールの補充または油賦形剤を9日間連続で毎日投与した(ばく露の1時間前)。更に雄(n=9)も調べた。

影響評価項目

ばく露

ばく露 パラメータ
ばく露1: 60 Hz
ばく露時間: continuous for 2 hr/day on 9 consecutive days

ばく露1

主たる特性
周波数 60 Hz
タイプ
  • magnetic field
ばく露時間 continuous for 2 hr/day on 9 consecutive days
ばく露装置
ばく露の発生源/構造
ばく露装置の詳細 pair of circular Helmholtz coils; each double-wrapped coil had an internal diameter of 30 cm and 105 turns of 18-gauge copper wire; coils 15 cm apart forming an exposure area of 30 cm x 30 cm x 15 cm
Sham exposure A sham exposure was conducted.
パラメータ
測定量 種別 Method Mass 備考
磁束密度 1 mT - 測定値 - -

Reference articles

ばく露を受けた生物:

方法 影響評価項目/測定パラメータ/方法

研究対象とした生物試料:
研究対象とした臓器系:
調査の時期:
  • ばく露中
  • ばく露後

研究の主なアウトカム(著者による)

超低周波電磁界ばく露は、雌の嗅球エストロゲン受容体ベータの遺伝子発現に二相性の影響を生じ、発情間期には増加し、発情期には減少した。雌のエストロゲン受容体アルファの発現に対する超低周波磁界の影響力はなかった。

このデータは、雌の嗅球におけるエストロゲン受容体アルファ及びベータの遺伝子発現の、非ばく露動物発情周期を通じた変動パターンを示した。

エストロゲン受容体ベータの発現プロファイルには、卵巣切除群と「卵巣切除+17-ベータ-エストラジオール」-電磁界ばく露群との差は見られなかった。最後に述べたグループでは、エストロゲン受容体ベータの発現は、発情前及び発情期と比較して有意に異なっていた。著者らは、エストロゲン受容体ベータの発現に対する電磁界の影響には、17-ベータ-エストラジオール以外の因子が関与していることを示唆している。

雄の嗅球におけるエストロゲン受容体アルファ及びベータの発現レベルには、ばく露群または偽ばく露群で差は示されなかった。

まとめると、超低周波電磁界ばく露は成獣の雌ラット嗅球でのエストロゲン受容体ベータの遺伝子発現変調させたが、雄では変調させなかった。著者らは、雄ラットの社会認識にはエストロゲン以外のメカニズムが関与していると推測している。

研究の種別:

研究助成

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