社会が工業化するにつれ、人々の健康状態が変化している。急性の感染性疾患が減り、慢性疾患が増加している。電気の使用は工業化の過程で特長的であるが、電気ががんリスクを増大する可能性があるという疑いはなかった。近年、多くの疫学研究から電磁界(EMF)ががんリスクを増大する可能性があることが示唆されてきた。実際のがん実験はまだ少ないが、EMFの生物学的影響が多数報告され、これががん実験や疫学研究の計画立案の基盤となっている。これには次の様なEMFの影響が含まれる:a)DNA転写および翻訳、b)細胞内カルシウムバランス、c)松果体メラトニン分泌、である。カルシウムの恒常性がなくなるのは、がん遺伝子の活性化、蛋白キナーゼとオルチニン・デカルボキシラーゼ(ODC)による促進作用、酸化ストレスの増大などを意味する。メラトニンの減少は、乳房や前立腺などホルモン依存組織の潜在的ながんリスクの増加を示唆する。がん誘発物質が必ずイニシエータ、プロモータであるという考えは捨てるべきで、近年この2つの用語の現象学的意味は混同されている。正常細胞または完全形質転換細胞の分裂に影響する物質は、イニシィエータまたはプロモータとは全く別に、臨床的ながん発生に重要な役割を果たす可能性がある。EMFとがんの疫学研究では、がんリスクを増大させ、ひいては補助因子または交絡因子として作用する可能性がある他の電気製品(夜間照明)、またはEMF職業ばく露(化学薬剤など)に関連する因子を考慮する必要がある。
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