1. 背景
超低周波磁界(ELF-MF)へのばく露は、疫学研究で観察された小児白血病リスクの上昇を根拠に、2001年に国際がん研究機関(IARC)モノグラフにおいて「ヒトへの発がん性があるかも知れない」と判定されたが、一方、実験動物での発がん性の証拠は[不十分]、メカニズム研究からの証拠は「弱い」と見なされた。
2. 目的および共同研究組織
欧州連合の第7次環境研究計画(FP7-ENV)の支援を受けたARIMMORAプロジェクト(研究期間01/10/2011 - 31/03/2015)は、ELF-MFばく露とがん、とりわけ小児白血病の関連性の根底をなす生物物理学的メカニズムを精査し、因果関係の可能性の有無を明らかにすることを目的に立ち上げられた。共同研究組織は、エピジェネティクス、ERK信号カスケード、白血病のイン・ビボのモデル、イン・ビボ毒性学、EMF高感受性動物モデル、さらには、ばく露評価、生物物理学的モデル化、リスク評価の分野において世界をリードする10の研究センターで構成された。
3. 研究の方法および結果
1) 小児のELF-MFばく露評価に関する知識の欠落を埋めるために新規の実験技術および計算機技術を開発、応用した。スイスおよびイタリアで実施された個人ばく露の研究で、小児のばく露の平均は0.1 μT以下、> 0.3μTの磁界レベルへのばく露があるのは小児の約1 - 4%であることが明らかになった。高ばく露群の定義に最も適するのは寝室でのばく露であり、総合的ばく露に大きく寄与する日中の活動度および近傍界発生源へのばく露はどちらも適さなかった。近傍界発生源による誘導電界を評価するために、測定された磁界の振幅および勾配を局所的誘導電界にその場で換算する新規の装置を開発した。また、本プロジェクトにおける実験および今後のあらゆる研究での正しい解釈を支援するため、イン・ビボ実験とイン・ビトロ実験を比較する変換マトリクスを開発した。
2) ばく露の品質を最高にするため、新規の改善が施されたイン・ビボおよびイン・ビトロ用のばく露装置を開発した。
3) ELF-MFばく露の評価ばかりでなく、あらゆる遠方界および近傍界での誘導電界の評価も可能な新しい計測装置一式の計装を開発した。
4) 大きな貢献は、最も多いタイプの小児白血病(B細胞急性リンパ芽球性白血病:B-ALL)に関連するヒトの遺伝子を発現した新型のトランスジェニックマウスモデルの開発である。予備的な実験では、ELF-MFばく露マウス群(30匹)では1匹がB-ALLを発症、対照群(65匹)では発症がなかったが、この結果から精々言えることは、マウスモデルにおいて白血病発症頻度が推定されるかも知れないということである。
5) 独立的ないくつかのイン・ビボ実験の結果が、ELF-MFばく露に関連してCD8+のT細胞が減少すること示した。
6) ELF-MFにばく露したヒト造血幹細胞でエピジェネティック修飾の小さな差異が観察された。
7) 微視的考察の成果に基づく実現可能性研究で、ラジカル対メカニズムは、観察されたELF-MFの信号伝達経路への影響のメカニズムの候補になりうることを示した。
4. 結論
いくつかのブレイクスルーは達成されたものの、ARIMMORA共同研究組織のメンバーがARIMMORAリスク評価(IARCモノグラフプログラムの評価体系を適用)において出した結論は、ELF-MFばく露と小児白血病リスクとの関連性は、IARCのグループB分類(ヒトへの発がん性があるかも知れない)と一貫していると見なされる、ということである。このカテゴリーは、ヒトでの発がん性の限定的証拠および実験動物での発がん性の不十分な証拠からの最終的判定結果である。メカニズム研究からは裏付けには弱い証拠があるのみである。しかし、ARIMMORAでの実験から得られた新しいメカニズム論的洞察は、今後の研究の方向を示しており、一つか二つの後続のプロジェクトで達成されると思われる大きな変革を今後のアセスメントにもたらす可能性がある。
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