[ニュース:WHOの分類が携帯電話の安全性を巡る論争に火をつける] comment

WHO classification sparks debate over cell phone safety

掲載誌: J Natl Cancer Inst 2011; 103 (15): 1146-1147

2011年7月のThe Lancet Oncology で、WHOの国際がん研究機関IARC)は、神経膠腫聴神経鞘腫リスク上昇を根拠に無線周波RF電磁界を「ヒトに対して発がん性があるかも知れない」(グループ2B)に分類したことを発表した。これは、10年以上の携帯電話使用によるがんリスク上昇を見出さなかった非常に大規模なInterphone研究からほぼ1年後の措置である。ただし、本誌(JNCI 2010; 102; 13)に公表されたInterphone研究の結果は、最も使用がヘビーである人でいくらかのリスクがあるかも知れないことを示唆していた。この公表を受けて、米国がん研究所(NCI)、米国がん学会、その他の関係諸機関はオンライン情報を更新し、WHOのこの度の対応は臨床医学的に意味のある新しい証拠に基づいたものではなく、単にこれまでの文献の評価を根拠としたものであることを伝えて、心配する消費者を安心させることに苦心した。現に、IARCの作業グループ全体の委員長を務めるJonathan Samet博士(University of Southern California、米国)は、5月31日のリヨンでのプレスカンファランスで「ある種のリスクがあるかも知れないから、携帯電話がんリスクの間の関連についてきめの細かい注視を続ける必要があるということである。」と話した。WHOは、1971年以来、IARCモノグラフにて900種以上の要因の発がん性のラベル付けを行っている。その内、107種がグループ1(ヒトに対して発がん性がある)、59種が同2A(ヒトに対しておそらく(probably)発がん性がある)、267種が同2B(ヒトに対して発がん性があるかも知れない(possibly))、508種が同3(証拠の不足が主な理由で分類不能)、ただ1種のみが同4(ヒトに対しておそらく発がん性はない)とされている。このラベルの意味が公衆に十分に伝わっていないことが混乱の原因と指摘するBob Tarone博士(国際疫学研究所、米国)は、「私の見解では、グループ2Bおよび3に属する要因の大部分は、一般的な「おそらく(probably)」の語義にしたがって、おそらくがんを引き起こさない。しかし、グループ4(おそらく発がん性はない)のIARCのクライテリアに合致させることは事実上不可能である。なぜならその要因に発がん性がないことを示す証拠を求められるからである」と話した。IARCの微妙な言葉遣いは様々に解釈できるため、リスクの可能性に対する擁護派、懐疑派双方の発言を活発化させた。L Hardell(Orebro University Hospital、スウェーデン)、J Moskowitz(University of California-Berkeley、米国)、S Sadetzki(Gertner Institute at Sheba Medical Center、イスラエル)など擁護派の研究者は自分たちの研究の正当性が立証されたと考えたようである。一方、M Feychting(Karolinska Institute、スウェーデン)、A Swerdlow(Britain’s Institute of Cancer Research、英国, )など懐疑派の研究者はリスクがあることを示す証拠が不十分な点を指摘している。A Swerdlow博士が委員長を務めるICNIRPの常設委員会(疫学)は、Environmental Health Perspectives誌で「ある程度の不確かさは残るものの、積み重なりつつある証拠は、携帯電話使用が成人脳腫瘍を引き起こすという仮説を打ち消す傾向を次第に示すようになっている」との見解を報告した。リスクの証拠に説得力がないと考える研究者の主な論拠は、がん発症率の時間的傾向が過去20年の携帯電話使用の劇的増加と関連を示さないことである。Annual Report to the Nation on the Status of Cancer , 1975- 2007(JNCI, 2011; 714-36)によれば、米国での脳腫瘍の発症数は1987年から2007年の間、年間0.4%の割合で低下している。英国および北欧諸国も同様に発症率が一定または低下していること報告している。IARCの作業グループは時間的傾向の分析を、携帯電話が普及した後の10-15年間である2000年代初期までしか調べられていないとして軽視したが、最も最近のスウェーデンのデータは2009年の脳腫瘍発症数に増加が見られないことを示した。ただし、前出のBob Tarone博士は、「潜伏期も当然考慮しなければならず、サーベイランスによって発症率に注目し続けなければならない」としている。いずれにしても、IARCの評価の後は、その母体であるWHOが携帯電話の使用に関するガイダンスの取り纏めにかかる。がん統計のサーベイランスの継続以外に、米国の齧歯類を用いた大規模長期ばく露実験、欧州の25万人の前向きコホート研究(COSMOS)、子供の携帯電話使用に関する13ヶ国共同の症例対照研究(MobiKids)など進行中の研究の結果も待たれている。

ばく露

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