ここ数年、新しい神経機能調整療法である経頭蓋直流電流刺激(tDCS)は、ヒトの頭蓋骨を通して特に背外側前頭前皮質(DLPFC)の大脳活動を無侵襲かつ無痛的に調整する方法として研究されている。tDCSは頭蓋骨上のスポンジ電極を通して弱い電流(1-2 mA)を皮質に送り込むものであり、磁界を与えて皮質に刺激電流を誘導させる経頭蓋磁気刺激(TMS)とは別のものである。流入した電流の一部は皮質ニューロンの活動を変化させ、皮質の興奮に極性に依存した変化を起こすことになる。TMSに比べtDCSは刺激の集中度は低いものの、可搬性、安全性、低費用はtDCSの利点となる可能性がある。ただし、tDCSはうつ病領域において期待が持てる予備的な研究結果があるものの、現在はあくまでも研究的な治療法であり、米国FDAおよび欧州医薬品庁の正式承認を得ておらず、安全性と有効性に関する最適な刺激パラメータを規定するガイドラインもない。これまでのところ、tDCSの安全性の研究は数が少なく、情報は、全体として良好な耐性を報告している臨床試験から、侵襲性の最小レベルという観点において導き出す必要がある。一方、問題点として主に報告されているのは刺激電極下での一過性の皮膚反応であり、稀には小さな熱傷もある。さらに、一過性の頭痛、皮膚の痒み、発赤も報告されている。これまでの知見によれば、tDCSがうつ病の推奨される治療法であることを裏付ける十分な証拠はない。しかし、第一段階としての二重ブラインド、擬似ばく露試行による証拠が増えつつあり、今後の研究が待たれる。精神科の治療分野において、侵襲性が最小レベルであり、副作用として重大なものはない新規の神経機能調整療法が実施されれば、病態生理学的知識をより確実なものにし、向精神薬およびサイコセラピーに加えて第3の治療法が提供される。
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