[論説:携帯電話、がん、子供] comment

Cell phones, cancer, and children

掲載誌: J Natl Cancer Inst 2011; 103 (16): 1211-1213

これまでの疫学研究において、携帯電話から放射される非電離放射線がんリスクと関連することを示す決定的で一貫した証拠はないとWHOおよび米国がん研究期間は結論している。このようなヒトでの観察の結果を、事実上全ての実験動物研究およびインビトロ研究における影響を否定する知見や非電離無線周波電磁波がDNAを損傷し、がんに至らしめる生物学的メカニズムが何も知られていないことと考え合わせると、この度国際がん研究期間(IARC)が携帯電話等の無線周波電磁界を「ヒトに対して発がん性があるかも知れない」に分類したことには驚きがもたれたようである。この驚きを反映してこれまでの疫学的証拠を見直したICNIRPの最近の論文によれば、「いくらかの不確かさは残っているものの、蓄積されつつある証拠は徐々に携帯電話使用が成人脳腫瘍の原因となるという仮説を否定する傾向にある」と結論されている。子供が成人より非電離無線周波の電磁波に対して特別に感受性が高いという証拠はないものの、子供は若く、成長中で長い余命をもつという明白な理由から、偽りのない関心がもたれている。本誌に掲載されたAydinらの論文は、脳腫瘍診断された小児および思春期層における携帯電話の使用について調査を行った初めての研究の結果を報告している。従来の成人での研究と一致して、携帯電話を規則的に使用しない子供に比べ、使用する子供で脳腫瘍の発症のリスクが高いことを確実に示す証拠は見出されなかった(訳注:詳細は、本データベースに収録されている原著論文を参照のこと)。Aydinらは脳腫瘍の発症数の統計についても検討をしているが、その他にこれまでに米国、英国、ニュージーランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドでの最近の20年間の小児成人脳腫瘍の発症数の時間的傾向についての研究が行われている。これらの全国規模の時間的傾向は、最近において脳腫瘍が増加したことを示す証拠はないことを一様に、明らかに一致して示している。1980年代以降、世界中で携帯電話使用が着実に著しく増加したことを考えると、無線周波の電磁波が脳腫瘍と因果的に関連するとすれば、当然脳腫瘍の増加が予想されるが現実はそうはなっていない。今後も人口ベースの発症率の監視の継続が推奨される。また、以上の様な状況にも関わらず懸念を抱く個人は通話を短くすること、イヤピースまたはスピーカなどを使用することを検討してもよいだろう。また真のリスクについて分かっていることに気を留めるならば、運転中の携帯電話使用による注意散漫は事故および傷害リスクを増加させることは明らかになっているのであるから、それを避けることが賢明だろう。

ばく露