2011年5月、14ヶ国からの30名はフランス、リヨンの国際がん研究機関(IARC)で会議を開き、無線周波電磁界(RF-EMF)の発がん性を評価した。これらの評価結果はIARCモノグラフ第102巻として出版予定であるが、これはその概要の速報である。内容は、RF-EMF(周波数範囲30 kHz-300 GHz)へのばく露実態とそのレベル、RF-EMFと身体とのカップリングの基礎的事項を簡単に述べた後、発がん性評価の根拠とした疫学研究と生物学的研究の証拠の強さの判定結果について説明している。RF-EMFとがんとの関連についての疫学的証拠は、コホート研究、症例対照研究、時間的トレンド研究から出ている。これらの研究の対象となった人口集団は、職業的環境におけるRF-EMF、一般環境中の発生源からのRF-EMF、あるいは携帯電話やコードレス電話の使用によるRF-EMFのばく露を受けたが、最も広範に研究が行われたばく露発生源は無線(携帯およびコードレス)電話である。ワーキンググループは、1件のコホート研究と5件の症例対照研究を、無線電話使用と神経膠腫と関連に関して潜在的に有用な情報を提供していると判断した。 コホート研究:デンマークの携帯電話会社2社の1982-1995年間の契約者420, 095人中の神経膠腫症例257人を取り入れた。神経膠腫発生率は、契約者についての全国平均値に近かった。この研究では、携帯電話プロバイダとの契約を携帯電話使用の代替指標として頼ることが、ばく露評価にかなりの誤分類を生じさせたかも知れない。初期の3件の症例対照研究:携帯電話使用が少なく、使用者は典型的には累積ばく露が低く、携帯電話の最初の使用からの年月が短い時代を取り込んだもので、影響推定値は全体として不正確であった。ワーキンググループはこれらの研究を有益ではないと見なした。 INTERPHONE研究:神経膠腫、聴神経鞘腫、髄膜腫を含めた脳腫瘍と携帯電話使用についてのこれまでで最大の調査である。そのプール分析は、神経膠腫症例群2708人、対照群2972人を含めた(それぞれの参加率は64%、53%)。携帯電話使用者群をこれまでに使用したことがない非使用者群と比較して算出したオッズ比(OR)は0.81(95%信頼区間:0.70-0.94)であった。累積通話時間で見ると、10分位の最高カテゴリー(>1640時間)を除くばく露の10分位カテゴリー全てにおいてORsは一様に低いか、1に近い値であった。ただし、最高カテゴリーでの神経膠腫ORは1.40(95%信頼区間:1.03-1.89)であった。同側ばく露(腫瘍と同じ頭側面へのばく露)およびRFばく露が最も高くなる側頭葉の腫瘍について、リスク上昇の示唆があった。神経膠腫とその腫瘍部位に吸収された累積的エネルギーの関連が、RFばく露量が推定できた553症例において調べられた。診断前の7年以上のばく露について推定したRFばく露量が上昇するにつれて神経膠腫のORは上昇したが、診断前の7年以内のばく露量の推定値との関連はなかった。スウェーデングループの研究:携帯電話およびコードレス電話の使用と神経膠腫、聴神経鞘腫および髄膜腫との関連を調べた2件の同様の研究をプール分析した。この分析に含められた神経膠腫症例群1148人(1997-2003年に確認されたもの)、対照群2438人は、それぞれがん登録および住民登録から得た。郵送による自記式質問紙の後に続いて電話インタビューを行い、携帯電話およびコードレス電話の使用を含む、ばく露および重要な共変数に関する情報を得た(両群の回答率はそれぞれ、85%、84%)。1年以上の携帯電話使用者における神経膠腫のORは1.3(95%信頼区間:1.1-1.6)であった。最初の使用以降の年月の増加および通話時間の増加とともにORは上昇し、2000時間を上回る使用においてORは3.2(95%信頼区間:2.0-5.1)になった。携帯電話の同側使用はより高いリスクとの関連を示した。同様の知見はコードレス電話の使用でも報告された。INTERPHONE研究もスウェーデンのプール分析も、想起の誤りおよび参加の選択によるバイアスの影響を受けやすいものの、個々の知見をバイアスの反映だけを理由に却下することはできないし、携帯電話のRF-EMFばく露と神経膠腫との因果的な解釈はあり得るかも知れないとワーキンググループは結論した。聴神経鞘腫に関する2件の研究は、神経膠腫より実質的に症例数が少ないものの、同様の結論が導き出された。さらに、日本の研究が、携帯電話の同側使用に関連した聴神経鞘腫のリスク上昇の証拠を見出した。無線電話からのRF-EMFばく露と神経膠腫および聴神経鞘腫との陽性の関連を根拠に、RF-EMFの発がん性に「ヒトにおける限定的証拠」があると、ワーキンググループは結論した。ワーキンググループのメンバー数人がヒトにおける現在の証拠は「不十分」と見なした。彼らの意見では、2件の症例対照研究に不一致があり、INTERPHONE研究結果にばく露-反応関係がない。また、デンマークのコホート研究で神経膠腫や聴神経鞘腫の発生率の上昇は見られておらず、また現在までに報告されている神経膠腫の発生率の時間的傾向は携帯電話使用の時間的傾向と類似点を示していない。ワーキンググループは、2年間のがんの生物影響試験7件を含む、齧歯類でRF-EMFの発がん性を評価した40件以上の研究をレビューした。全体として、ワーキンググループは、RF-EMFの発がん性に対して、実験動物での「限定的証拠」があると結論した。結論 :ヒトおよび実験動物における限定的証拠を考慮して、ワーキンググループはRF-EMFを「ヒトに対して発がん性があるかも知れない」(グループ2B)に分類した。この評価結果をワーキンググループメンバーの大多数は支持した。
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